Konishiroku Konica IIIA 50mm F1.8

1958年7月発売。「生きているファインダー」と呼ばれた等倍ファインダーを持つフルメカニカルなレンジファインダーカメラ。往年の Leica ですら実装していないパララックスと画角を両方自動補正する仕組みをファインダーに組み込んでいる、技術的にも傑出したカメラ。造りの良さ、メッキの質、そして名玉 HEXANON という、紛れもない名機。127×80×69mm、820g。私的にはこの時代の数多ある国内外レンジファインダー機の中でトップだと思っている。

フィルタ径 43mm の大口径レンズ HEXANON 50mm F1.8 は風巻友一氏によるもので特許公報昭29-1225 がその光学特許だろう。同特許によるものと思われる HEXANON 50mm F1.9 は和製ズミクロンとも呼ばれ非常に評価が高いそうな。(ちなみに HEXANON 48mm F2 も同じレンズ構成。)

(蛇足)なお Konica II シリーズの 3群5枚(ヘリアー型) Hexanon 50mm F2.8 の設計は風巻氏の特許公報昭27-3023 だろう。

さて、この風巻氏は戦前から戦時中にかけて小西六のレンズ設計技術を確立された方だそうだ。コンピュータも無い時代に 3次収差係数計算を併用した高次収差を制御する設計手法を確立されたという。(参照:「光学産業開花期の一断面 -コニカにおけるレンズ技術発展史」(pdf))つまり、名レンズとして知られる Hexar や Hexanon も風巻氏なくしては生まれなかったということ。しかしその能力を認めない会社に憤慨し、この Konica III A1.8 の発売前年の 1957年に退職されたらしい。その後、旭光学(PENTAX)に移籍され、数々の名レンズを世に送り出されたそうだ。例の 6群7枚の変形ダブルガウス(US3451745 "Large aperture seven-lens objective lens system ", 風巻友一さんと高橋泰夫さんの連名特許)もその一つ。(この 6群7枚の変形ダブルガウスの設計者ということで風巻氏の名前を知り、遡っていろいろ調べた次第。)

話は違うけど、1958年にはあの Asahi Pentax K も発売されている。…と、どうしても Pentax に話をもっていきたくなる。 そもそも私が Konica I,II,III シリーズに興味を持った理由は、風巻氏のことだけでなく小西六と旭光学に深い繋がりがあるからなのでして。 ^-^;;; (小西六と旭光学の関係について詳しくは、「国産カメラ開発物語」(小倉 磐夫著)や「ペンタックスのすべて」辺りをどうぞ。)

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この Konica IIIA、細部にわたる造りやメッキの質がすこぶる素晴らしく、眺めているだけでも楽しい。今であれば RoHS 関連で作れないのではないかなぁ。 また「生きているファインダー」の言葉通り、ファインダーの見え具合もとても良い。 (取説によると「ファインダーに組み込まれた一眼二重像合致式連動距離計は、特許(第184797号)による三重膜式補色鏡を使ったもので、黄色像と紫色像を合致させるもの。バララックスは自動的に補正され、どの距離であってもファインダー視野と撮影画面は常に一致する」とのこと。実際使ってみて、とても良くできている機構だと思う。)

ちなみにボディの造形的には一つ前のシリーズの Konica II シリーズの方が好きなのだけれど、等倍ファインダーと大口径 Hexanon (当時これ以上明るいレンズは作れないといわれていた F1.8)に惹かれてこちらにした。この無骨なデザインの Konica III シリーズは技術者の方々が当時持ちうる最高の技術を詰め込んで作り上げたものなのではないかと感じるところも惹かれる理由。 あと Konica II まではストラップを付けるためのアイレットが無く、実用上持ち歩きに不便であることも Konica II を選ばなかった理由…(などと書いていたのに、何故か手元に IIB が! ^-^;;; あぁぁ、IIAも!)

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2017年春頃、広島駅前の日進堂カメラさんにて購入。きちんと整備されていてとても状態がよい。光学系のみならず、外装のメッキの状態もすこぶる良く、そのため傷つけたくない気持ちがちょっと前に出て、気軽に持ち出せないのが難点。^-^;; でも使うけどね。使ってこそのカメラだし。

LV(Light Value) について

Konica IIIA には LV 値(EV 値)を設定する環があり、基本的にシャッター環と絞り環を独立して動かす仕組みになっていない。シャッターと絞りを独立して設定できないが故に使いにくいという意見も散見される。しかし、その仕組みの意味を考えた上で実際に操作しながら試してみると、LV 値による操作体系は実にうまい仕組みであることが分かってくる。LV 方式は使いにくいものではないと主張したい。

一般に何故使いにくいと言われるのか?今どきの露出計付きカメラを使っている人は、カメラにお任せでシャッター優先 or 絞り優先で撮影をしていると思う。そういった操作に慣れているので、シャッター値 or 絞り値を単独で設定したいと考えてしまうのだろう。結果、シャッター速度や絞り値を独立に設定できない→このカメラは使いにくい、といったところではないかと思う。

しかしよく考えてみてほしい。フィルムを適切に感光させるために露出計を使うわけだが、その露出計で測っているのが何であるかというと、入ってくる光の量、ただそれだけである。絞りやシャッタースピードではない。そして、入ってくる光の量とはまさしく LV 値そのものであり、本来写真において露出を決定するということは LV 値を決めることに他ならないはずだ。(くどい言い回しだな…。)LV 値を決めた後に、その LV 値に合致する絞り値とシャッター速度の組み合わせを選ぶ、というのが写真を撮影する流れとして自然だと言えよう。この Konica IIIA はこの自然な操作を行いやすいように設計されたものだと言える。(ちなみにいろいろ調べてみると、このライトバリュー(LV)方式は 1950年代半ば頃にドイツで発案されたものらしい。露出の電子制御の普及ともに消えていったのだとか。)

ちなみに具体的な撮影動作はこんな感じになる。

  1. まず、LV 値を測定できる露出計で光量を測る。(もちろん経験値でも可。晴れだから LV=14 だなとか、日陰だから LV=12 かなとか。ネガならそれで大丈夫。)
  2. LV値から使用するフィルム感度に応じて EV値を求めて LV環を合わせる。(EV値へ換算はとても簡単。今時の露出計なら EV 値をそのまま表示してくれる。)この時に、アンダー目に撮るかオーバー目に撮るかを考えて EV 値をずらすと良いだろう。
  3. あとは連動している絞り環とシャッター速度環を回して設定する。

露出を決めた後に、絞り&シャッター速度を決める。 LV 方式は、写真の基本に忠実なものであり、実に合理的だと思う。

EVとLV

上述のEVはISO100のフィルムを基準とした実効露出量とでもいう量。 フィルム感度が ISO200 のとき ISO100 より一段上になるので EV=LV+1、ISO400 のとき二段上になるので EV=LV+2、のように計算する。フィルム感度が ISO100 に比べて n 段違うフィルムの時、EV=LV+n となる。 (別の言葉で書くならば、ISO100、F値1.0、シャッター速度1秒のとき EV=0 となるように EV を定義。)

悩ましいのは、書籍やWeb上の記載によって、EVやLVの定義に若干混乱が見られること。たとえば上述の EV のつもりで LV が定義されているものもあるし、どうも定義に揺らぎがあるようにみえる。(言い換えるとどれが正確な定義なのか私もよく分からない。というわけで、ここの文章は要検証。以下追記参照。)

(追記、2019/02)LV と EV の定義に混乱を裏付ける資料があった。セコニックの古い露出計オートリーダー L-38 の説明書 p.4 に次のような記述がある。

EVはエクスポジャー・バリューの訳で、ライトバリューと同じ意味であります。 アメリカではライトバリューのことをエクスポジャーバリューと呼んでおります。

すなわちこの説明書によれば、当時のアメリカでは EV=LV であると記述してあるわけで、国によって違う言い方をしていた訳ですね。混乱する訳だ。(腑に落ちた)

コーティング

この Konica III A 50mm F1.8 のレンズには、amber-blue コーティングがなされている。(Konica IIIA & IIIM の英語ユーザマニュアルに amber-blue hard coating と記述してある。)まだ単層コーティングしかない時代で、被膜厚の異なる magenta coating, amber coating, blue coating といった透過率の異なるコーティングがあったようだ。(参照:"Amber Coatingについて"、鈴木迪夫、応用物理 23 巻 (1954) 8 号 p.371-373)レンズ自体の着色の問題もあり、これらのコーティングを施して色バランスを取っていたとのこと。

ちなみに、実機 Konica IIIA のレンズを光源下で眺めて観察したところ、レンズ面毎に異なる coating が施されているように見える。amber-blue coating というのは、amber coating の面と blue coating の面がある、ということではないかと思われる。(ただ、干渉光を見た限りでは、amber と blue じゃなくて、amber と magenta のような気がするけれど。)

補足:1950年代後半に二層コーティングに関する論文はあるようだ。(世界初の多層膜コーティングはミノルタのアクロマチックコーティング。)マルチコーティングは、宇宙開発が始まった 1960年代以降に技術開発が盛んに進められたと言われる。なお、コーティングといえば古くから旭光学 PENTAX が突出しているが、1970年代初頭にいきなり 7層からなる Super-Multi-Coated Takumar を出して世間を驚かせたのだとか。

ケース(代用品)

Konica 用のケースはないので代わりのものを探していたのだけど、Ricoh-Imaging のアウトレットにてワンコインで買っていた PENTAX のキャリングケース(O-CC172)に入れてみたらドンピシャ。しかもハードシェルタイプなので丈夫で Konica IIIA を傷つけることもないだろう。

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konihood までピッタリ収まって、まるで誂(あつら)え物のよう :-)

サンプル

Fuji Superia X-Tra 400 で撮り、CanoScan 9000 MkII でフィルムスキャンしたもの。赤被りしているような気がするが、スキャン時の設定が悪かったかなぁ。時間があるときにスキャンし直そうか。。。

撮影地は「写真工業発祥の地」、すなわち六桜社跡と、隣接した熊野神社です。桜の季節に六桜社跡に来て Konica IIIA で撮った、というのがポイントです。 :-)

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うぅむ、いい写りだなぁ…これが 60年も前のカメラだとは! (色味が変なのはスキャンのせいだと思うのでご勘弁を。)